CGMから始まるイノベーション 初音ミクが切りひらく未来 レポート(4)

ドミニク・チェン(NPO法人コモンスフィア理事)
表現者が自由に面白いことができるように

■ 「クリエイティブ・コモンズ」の仕事

ドミニク・チェンと申します。われわれ「クリエイティブ・コモンズ」は何をしてる団体かと言いますと、最初に宮下さんがプレゼンテーションで「表現の民主化」とおっしゃいましたが、それとまったく同じ理想を共有する団体です。

具体的なアプローチとして何をしているのかというと、たとえば「初音ミク」というソフトウェアなりコンテンツやメディアの、一番面倒くさくて実感しずらい部分である著作権をクリアして、クリエーターの人たちが自由に表現が行えるように、「表現の民主化」が行えるようにするという仕事で、これを2002年からアメリカを中心にやっています。日本でも8年ほど活動をしていまして、最近では『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』という本でその歴史の紹介なども行っています。

 

 

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最初に簡単におさらいします。インターネットが2000年代初頭に世界的に普及するようになってきてから、著作権の問題がいきなり前景化してきました。わかりやすい例でいえば、自分の好きなバンドのポスターを自分の部屋に貼るのは、何の問題もありません。ただ、「このバンド好きなんですよ」みたいにしてその画像を自分のブログに張っちゃった時に、実はその画像には権利があって、それを勝手に使ってはいけないと、構造的にそれは違法になってしまいます。そういう風に、他者に権利が属する情報を使用すると、ただちに著作権という法律の問題が出てきてしまいます。

何かを表現するとそこに必ず著作権が降りてきます。現行の法律だと、この©マークで囲まれてしまうことになる。そうすると、表現した権利者がたとえ望んでいるとしても、他の人がそれを改変したりリミックスしたりしてしまうことが法的に違法ということになってしまう。でも、使った側は「クリエーターはいいって言っているよ?」とキョトンとしている状態なわけですね。

そこで「クリエイティブ・コモンズ」が何をするかというと、クリエーターが合法的に「私の著作物は、みなさんがこういうルールに則って使ってくれれば、まったく問題ありません」という意思表示を広めていくことです。それも、著作権を否定するのではなく、著作権法に則ったライセンスを作るかたちで進めていくことです。私たちはそれを(cc)マークで表しています。

現状の著作権の状態を考えると、一方の極に「パブリック・ドメイン」、つまり著作権の保護期間が過ぎて、権利が失われた状態があります。それをうまく使っているのが、「青空文庫」です。みなさんご存じだと思いますが、著作権の失効している状態になっている文学作品をネットに上げて、誰でも自由に使うことができるようにしてあるサイトです。

「クリエイティブ・コモンズ」はちょうどこの©とパブリックドメインの間の中間層をつむぐグラデーションになっています。作者の氏名さえ表示すれば商用利用してもいいしリミックスしてもいい、というライセンスから、作者のクレジットを表示しなきゃいけないけれど、改変はダメ、商用利用もダメ、というライセンスまで、いろいろな段階があります。クリエーターが、自分の作品がこう使われてほしいという条件を、その都度6つの段階の中から選ぶことができます。

こういうオープンな創造の世界を広めようということで、10年間活動してきたのが「クリエイティブ・コモンズ」です。この10年で、全部列挙することができないくらい多くのサービスで使われてきました。たぶん一番みなさんの生活の中で近いのが「Wikipedia」だと思います。「Wikipedia」の記事は全部「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」(ccライセンス)で公開されているので、それを商用利用することもできるし、改変することも許されている。

興味深いところだとホワイトハウス、アメリカの大統領府ですね。ここのサイトもユーザーのコメントは全部CCライセンスがついています。あとはMITなどの大学の教材とか、YouTube、Vimeo、Soundcloud、flickrにおける動画、音楽、画像などですね。あとは有名なところでは、TEDのビデオも、「クリエイティブ・コモンズ」です。こういう目立った例は海外が非常に多いですね。

 

日本はどうかといいますと、2012年末に、ここにおられる佐々木さんも所属されているクリプトンさんから、海外向けに初音ミクの公式パッケージが「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」で公開されることになりました。国内ではクリプトンさん独自の「ピアプロ・キャラクター・ライセンス」が使われていますが、海外への普及をより目指すかたちで、このCCライセンスがつきました。

このCCライセンスのついたコンテンツの数の統計をずっととっているんですけども、正確な数の把握はかなり難しい。ただ、およそですけど、2011年末の段階で、約4億から5億個のコンテンツが公開されています(*2014年11月の最新の統計では8億8千万個という結果が発表されています)。面白いところでは、今年の2月に、警視庁が公式キャラクターを「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」で公開しています。

日本の状況を見ると、やっぱりマンガ文化やアニメ文化の方からこの動きに注目される向きが多いですね。これも去年の事例ですが、講談社で惣領冬実さんが描かれている『チェザーレ 破壊の創造者』というマンガがありまして、この漫画の副読本のPDF版がCCライセンスで公開されています。

 

■ なぜ二次創作が生まれるのか

私たちの団体は今は「commonsphere(コモンスフィア)」という名前にしていまして、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」もやるし、日本から「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」のような独自のシステムを提案することもやっています。

去年から展開しているのが、この「同人マーク」です。宮下さんからさっき「制度ってほんとに重要なの?」と挑発をいただいて(笑)、当然「重要だよ」とお答えしたい一例なんですけれども、詳細を話すと長くなる話なので、適宜要約しながらご説明します。

いま、TPPの交渉が秘密裏に進められていまして、そこで知的財産と著作権をどう扱うかという問題が出てきます。アメリカから日本に押しつけようとしているルールがいろいろありますが、一番問題なのが「非親告罪化」というもので、これはまさにさっきお話ししたような、当事者間は改変していいよといっているにもかかわらず、法律で禁じられているからというので、警察がコミケに入って、「それ、許可をとってないから逮捕します」ということが実際に起こってしまうわけです。そうするとコミケの文化はものすごく萎縮してしまうでしょう。それってナンセンスだよねっていうことから、マンガ家の赤松健先生に中心人物になっていただいて、それに対抗する動きを作ろうとしています。

これは2013年の夏に公開された赤松先生の『UQ HOLDER!』という新連載なんですが、同人マークがついています。同人マークがついているものは、コミケなどで同人マークの規定に従って自由にこの『UQ HOLDER!』の同人作品を作っていいよ、という意思表示になっています。ネットで、「この同人マークがついてないと同人誌を作ってはいけないのか」と誤解されている面もあるんですが、そうではなくて、この同人マークがついていると、より安心して、つまり作者が許可をしているので、非親告罪が適用しづらくなるということです。当事者間で合意があり、しかも著作権法に則った形態になっているので、合法ですよというメッセージですね。

ところで、コミケは稀有なダイナミズムを持つもので、そこにネットの二次創作の秘訣というか秘密のソースみたいなものがあるんじゃないかといろいろな人が言っていますね。

最近、ドワンゴとKADOKAWAが経営統合するという、非常にエキサイティングなニュースがありましたけれども、ドワンゴの会長である川上量生さんがおっしゃっていることは、僕が「クリエイティブ・コモンズ」で考えていることに非常に近いのでご紹介したいと思います。

どうして二次創作というものが生まれるのか。先ほど宮下さんから「それは人間の根源的な欲求だ」、表現することというのはお金儲けだけに還元することはできない、というお話がありました。それにも関連すると思いますが、二次創作を認めて、それがソーシャルに広がっていくことを、川上さんは「コンテンツの寿命を延ばす」と表現されてます。その感覚はすごくよくわかるんですね。

先ほど佐々木さんが最後におっしゃった「飽きられてしまう」とか、面白みや新鮮味をどう担保するかという問題は、新陳代謝がよくなるように構造として設計するだけではダメで、そういう仕組み作りに参加するエンジニアや、コンテンツ作りに特有の才能をもった人たちがいなければ実現しません。現実問題の著作権の障害といった問題をクリアして、二次創作を推奨することによって、よりコンテンツの表現者たちが自由に面白いことができるようにするというスタンスが重要だと思っています。

僕個人も別に法的な議論が大好きなわけではありません。面白いものが見たいし、面白いことに参加したい。でも、面倒くさいは面倒くさいけれど、それをやっておけば、面倒くさいことを言ってくる人も減ってくるだろうという思いをモチベーションにしてやっているところもあります。

ちょうど今、総務省の検討会というものに呼ばれていまして、「ファブ社会」をどう実現するかという提案を、今月末に委員会の方でまとめて公表します。「ファブ」っていう言葉は、3Dプリンターやレーザーカッターなどの、三次元化する、実体化する動き全般を指していますが、まさにこのデジタルからリアルへの情報の転化をどうやって制御するかというところにも権利の問題が絡んできています。既存のウェブの二次利用の広がりという話から、どう三次元の世界、ファブの世界に展開していくかという話の中で、そうした新しい著作物に付与すべき新しいライセンスの話もしています。

たとえば、「flickr」という世界最大規模の写真共有サイトがあって、そこには何億枚とCCライセンスが付けられた写真がありますが、たとえば「非営利だったら自由に使っていい」という窓口もあるけれど、それを企業が使いたいと言ったときにはお金を頂きます、というふたつの窓口が設けられるようになっています。この構造を「デュアル・ライセンス」と呼ぶんですが、そういうフォトサービスによるコマーシャル・ライセンシングとクリエーターへの配分、収益の分配を考えるためのモデルというものは非常に参考になるのではないかという話をしています。

これは「GitHub」っていうウェブサイトのマスコットの「Octocat」くんが、ちょっと日本風のコスプレをしている絵です。「GitHub」っていうのは、「Git」のウェブサイトですね。「Git」とは何かというと、「分散バージョン管理システム」で、最近の若い人だったら特に「Git」は日常的に使われていると思いますが、主にオープンソースのプログラミング、ソフトウェアの開発の現場で、世界中で使われています。

この構造が非常に面白いんです。たとえば、Wikipediaっていうのは、1個のバージョンに収斂するためのものですね。一つのある正しい正解にたどり着くためのもので、たとえば「初音ミク」っていう項目があったら、その記述に嘘を書いちゃダメ、事実や歴史と反するものはダメ、ということになります。だけど、「Git」の世界では、あるものをベースに全然違うものを作りたいと考えたときに、それを「forkする」という行為があって、正解に収斂するのではなく、異なるバージョンが複数併存できるんですね。これはソフトウェアの世界では非常に合理的で意味がある行為なので、すごく広まっています。

 

■ プロセスを可視化すること

僕はこれをコンテンツの世界に持ってこられるんじゃないか、というアイディアを考えています。ものを作るときに、誰がどういうバージョンを作っているのか、誰のソースをフォークしているのかという継承関係も含めてトレースできると、いろいろと新しい価値が可視化できるようになると思うんですね。経済的な利益を伝播させるやり方とか、ある人が他の人のものを見て、どれだけ学習できたかという学習効果の評価とか、あとひとつ、法的な課題というのがあって、「製造物責任法」みたいな、ソーシャルなファブリケーションの世界に対応した、製造物責任の話ですね。こういう解決したり議論すべき点はどんどん生まれています。

今までオープン化というと、権利の話が主でした。ただ、それだけではちょっと単純化しすぎていると思うんです。じゃあCCライセンスを貼ればいいのかというと、そういうわけでもない。「初音ミク」の現象はもっと複雑で、制度としてそんなに単純ではない。でも他の側面で、面白い人が集まってきたり、パッケージのデザインであったり、藤田さんの声の素敵さであったり、本当にさまざまな要因が複雑に相乗効果を起こして成功しているわけです。

権利の話は、とにかくクリアにしていかなきゃいけない話なので、僕としては、引き続き粛々とやっていくしかないと思っています。それよりも作品の生成プロセスみたいなものを、お互いに知らせることの方がカッティングエッジで面白いと考えています。それはまさに「Git」で起こっているし、「初音ミク」の文化の中でも起こっていることなんですね。

いまお見せしている映像は僕の会社で5年くらい前に作ったTypeTraceというソフトウェアのものです。文章をワープロで書くときに、タイピング一字一字を記録して再生できるソフトを作って、それで小説家の方に3ヶ月にわたって新しい小説を書いてもらったものです。そうすると、テキストを書いたプロセスが全部見えることで、非常にさまざまな発見があるんです。さっきお話ししていた、ソースをオープンにしていく、お互いに使っていいよ、というかたちにしていくのが横の広がりだとすると、今後は縦の方向、つまり作者が何を考えていたかとか、どういう経由でそのものができあがってきたのかまで見えていく世界があれば、より相互の創造行為を刺激する状況になってくるのではないかと思っています。

ひとつ危機感を抱いているのが、PCからスマホへの主要デバイスの移行が非常に多いことですね。どうしてこのことに危機感を覚えているかっていうと、単純化していうと、PCというものは生産を重視したツールなんですね。いろんなことができて、1台の中にPhotoshopも入っているし、Illustratorも入っているし、プログラミング環境でもなんでも入っている。だけど、いまのデジタルネイティブな人たちは、特にスマホで時間過ごすことが多くなっています。そういう人たちが過半数になってきた社会の中で、CGMがどうやったら盛り上がっていけるのか、本当にそこに危機はないのかってことを、真剣に考えているところです。