CGMから始まるイノベーション 初音ミクが切りひらく未来 レポート(5)

毛利宣裕(東京メイカー)・中村翼(株式会社東京メイカー)
パーソナル3Dプリンター革命

■ みんな欲しいものがわからない

毛利 皆さん、こんにちは。東京メイカーの毛利と申します。

中村 中村と申します。今日は東京メイカーを代表して、毛利と、私中村がご説明させていただきます。

毛利は工業用3Dプリンターのプロのエンジニアをしています。工業用の3Dプリンターには、大きく2種類あります。まず、「光造形」と呼ばれるもので、交換樹脂をレーザーで固めて積層していくものです。もうひとつが、「粉末造形」と言いまして、PM20から5ぐらいの粉末を固めて、できあがったら芋を掘るように取り出してくるものです。

その一方で、パーソナル3Dプリンターというものがあります。工業用ではなく、個人向けですね。これは実際に中野のブロードウェイのお店にあるものですが、これはFDM、fused deposition modelingという、プラスチックを溶かして積み重ねていく手法を使っています。

で、東京メイカーは何をしているかといいますと、工業用の3Dプリンターじゃなくて、パーソナル用の3Dプリンターを使用してものを作っています。

その先の話に進む前に、東京メイカーとしての簡単な歴史をご紹介します。2012年4月に、初めてパーソナルな3Dプリンターというものが発売されます。その年の10月にクリス・アンダーソンの『MAKERS』という本が出ましたが、その同じ時期に我々は個人用の3Dプリンターを購入しました。個人用なので家に置いていましたら、元旦の日経新聞に出たり、NHKの「サイエンスZERO」に出演させていただいたり。その後も3Dプリンターは購入し続けて、メディアでご紹介していただけるような機会が増えていきました。

毛利 最初のころは、もうちょっと早い時期から3Dプリンターを個人で輸入して使っているような方がいたんですね。でも、その方たちは、3Dプリンターを作ることの方に興味があって、それを使ってものを作ることにはあまり興味がなかった。ものを作る情報をあまり発信していなかったわけです。私たちはものを作ることの方に興味がありましたので、どんどんものを作って発表したんですね。そうすると、やっぱりマスコミの方が話題にしてくださった。当時は、他にものを作って発表している人が全然見つからなくて、私たちのところに来てくださったようです。

いまスライドに映っているのは小学生の長男と次男なんですけども、このように毎日造形するたびに、見入ってますね。下の次男は、できあがったら「あがったよー」とか、失敗したら「しっぱい!」と言ってくれる。上の子は、さすがにまだCADとかは教えていないんですけれども、いまインターネットで、造形のための3Dデータが無料でいろいろ公開されているので、それで自分の欲しいキャラクターを検索して、データを自分で処理して、この機械で作ったりしています。

では、何を家の中で作ってきたかというと、まずはじめにケース、iPhoneのケースですね。それから、眼鏡のフレームとか、なくした服のボタンとか、あとはベルトのバックルとかですね。これはエンジンブロックのミニチュア模型です。

2013年の11月に「東京デザイナーズウィーク」に招待で出展させていただいたときには、もうすべてダウンロードする時代だ、ものもダウンロードして自宅でまかなえるような時代になる、というテーマでやりました。これがそのときの様子ですが……。

これは子供さんをパンツ一丁にして、三次元スキャナで読み込んで、同じサイズのものをパーソナル3Dプリンターで、約200時間くらいかけて出力したところですね。

中村 3Dプリンターも複数台あるので、それらをすべて持ってきて展示をしていました。「モノは天から降ってくる」という題だったので、上から全部吊るして、盆栽みたいなものを入れてみたり、くまモンのケースやお弁当箱を作りました。

連日多くの人でにぎわっていたんですけれども、皆さん、3Dプリンターっていうものの存在はご存じだけれども、実際に現物を目にして、動いてるところを見たことがある方はほとんどいないわけですね。たとえていうと、電子レンジが初めて出てきた時のような感じです。電子レンジってものについて、みんな名前は知っているけれども、その電子レンジが何ができるかっていうものがわからない。電子レンジを使っておいしい料理を作れますが、あなたならどういう料理を作りますか、という質問をしても、実際電子レンジを使ったことがないので、わかるはずもないんです。

3Dプリンターもそれと同じで、使ったことがない人に「これで何を作りたいですか」って聞いても、わかるはずがないんです。ですから今は、専門家でも、みんなが欲しいものはまったくわからない、っていう状態なんです。

 

■ 創造性が炸裂する風景

中村 そこで、2014年2月に、「あッ3Dプリンター屋だッ!!」というお店を作りました。どこに出そうかと考えた時に、日本の文化の中心地である中野ブロードウェイで出そうと思って(笑)。

毛利 皆さん、私は反対したんです(笑)。私も中野ブロードウェイっていうのは何回か来たことがありまして、本当にオタクとかポップカルチャーの中心地だっていうことは思ったんだけれども、昔のマニア向けのコレクターズ・アイテムが集まるような場所だってイメージがあったんですね。「ものづくりをしたい人」がホントにここに来るのかなってのが、すごく疑問だったんです。

中村 そうですね、反対しましたね。今は?

毛利 今? 今はもう、ここじゃなきゃって思ってますね!(笑)

中村 実際、皆さんがどういうものを作られているかといいますと、初めの方は、こういうイラストを3Dで出す、厚みをつけるっていう依頼が多かったんです。

この方は昼間はソフトウェアのエンジニアなんですが、休日は料理教室を開いています。そこで何を作ったかというと、こういうパンの型を3Dプリンターで作ったんですね。これを使うと、こういう「らいおんパン」が作りやすくなるという。

lion

毛利 この方は、ウォシュレットの水の出るノズルが動かなくなっちゃったらしいんですね。自分でバラしてみたら、歯車が一部欠けているために動かなくなった。直径20mm弱のちっちゃいものなんですけどね。普通に考えたらこんなパーツ、1個200円とかのはずなんですが、それをメーカーの方に問い合わせたら、ユニット交換になるので、修理代は全部で1万6千円くらいかかるって言われたそうなんですね。しかも、修理するために従業員も派遣するので派遣料もとられると。それは納得いかないってことで、こちらでなんとかデータをとって直してくれないかって依頼だったんです。

欠けた歯車

中村 これ、実際に写真を撮って、そのままで図面になぞって、押し出しただけで作ったものなんですよね。

毛利 本来であればちゃんと計算して、モデリングするべきなんでしょうけれども、モデリングの担当者が、自分の経験から言うと、写真からデータを作っても大丈夫だと言うので。それではめてみたら、まあ滑らかに動いたということで。ただ私たちも、作ったものにどれだけの強度や耐久性があるかがわからないので、いちおう4個ほど、壊れたら交換してくださいってことで、お渡ししてます。

中村 実際に、上から写真撮ってやっただけのものなので、普通の個人の方でもIllustratorが使えれば、できるようなものなんです。

毛利 この方は鉄道オタクで、これを自分で作りたいがためにCADを覚えた、という(笑)。

cad鉄

中村 明治の学生です。

毛利 「鉄オタ」とか「撮り鉄」って言葉ありますよね。私たちは新しいジャンルで「CAD鉄」って呼ぶんですけど(笑)。

中村 まあとにかくいろんな方がいろんなものを作りに来ます。中野ブロードウェイは、外国からの観光客の方がすごく多いので、そういった方もたくさんいらっしゃいます。

僕らはいま毎週日曜日に、店舗内の3Dプリンターを一斉に動かして、「P1グランプリ」っていうイベントをやっています。

毛利 ここで毎週、いろんな課題を与えて、その機械を同時に動かして、いろいろな勝負をしています。あの、3Dプリンターってひとくちに言っても、メーカーによって得意分野があったり、性能がまちまちだったりするんですよ。電器屋さんで買い物すると、一番いいとされるメーカーのオススメを買っちゃうと、実は自分が作りたいものにはまったく不向きなものを買わされてしまったり、ということがあるわけですね。毎週日曜日の2時から、生中継で配信してますので、よろしければ。

中村 これは、毛利さんの解説がいつも入っているんですよね。ところで、この人形はなんで逆さまに出力してるんですか?

figure

毛利 これはPerfumeのあーちゃんを造形しているところなんですが、ごらんのとおり逆さまになってますね。ファンの方からは怒られるかもしれないんですが。3Dプリンターって、人形は立てた方が体のディテールをきれいに造形できるんです。ただし、足から造形していくと、この場合ハイヒールを履いていますし、手も下に伸びていくので、サポートがうまくとれなかったりだとか、壊れてしまったりするんです。このポーズを見ると、ちょうど逆さにすると、頭と肩にしかサポートがいらない。ただこのまま造形していくと、3Dプリンター自身が持ってる熱で、うまく冷えなくて、造形が失敗してしまうんです。そのために後ろに2本、ダミーの柱を立てて、ヘッドが本体から離れるようにしてやると、きれいに造形できるんですね……とかちょっとマニアックな話をしながら、3Dプリンターを使いこなせるような工夫についても説明したりしてます。

中村 お店の方では、インターン生が無料のCAD教室を開いています。

cad勉強会

毛利 これはさっきの「CAD鉄」の彼が社会人の方を相手にあれこれ教えているところです。教えるというか、わいわいがやがやとやっていますね。

中村 3ヵ月半やったんですけども、ここには何かあるんじゃないかと思っています。

 

■ 目的を決めないことが自由に作れること

中村 最後に海外のことをちょっとだけ紹介して終わります。これ、3Dデータを作っているところですね。こちらは同じ3Dの、個人用のプリンターなんですけども、自分の腕を入れて何をしているかというと、刺青を自分の腕に入れてるんです。これは3Dプリンターではないことなんですね。でも、パーソナルな3Dプリンターがなければこのアイデアは思いつかなかったでしょう。こういったものを「3Dプリンター的な」って意味で、「3D Printful」と名づけてみました。今、こういった動きが海外も含めて、日本も含めて、かなり起きています。

もうひとつ紹介したいのが、これはアイドルがしているアイシャドウをウェブのページから色を持ってきて、その場で欲しい色を作る、という例です。これは、毛利さんからすれば、3Dプリンターではない?

毛利 ではないですね。調色機のようなものでしょう。

中村 でも、3Dプリンター、個人用の3Dプリンターができたからこそ思いついたアイデアだなと思っています。この後も、こうした「3D Printful」なものまで含めた動きを、僕ら東京メイカーは中野ブロードウェイで見ていきたいと思っています。

あと、いま土日に、「123D」っていうフリーのソフトを使って、無料の講習会をインターン生で行っています。なぜインターン生かというと、インターン生でもできるということを証明するためでもあるんですけどね。そして、その講習を受けた人は、そこで自由に次の「123D」、ないしは自分の好きなことをやっていい、っていうふうに進めるんです。どうしてそういうことをしてるかというと、そういう人たちにどんどん増殖していってほしいんですね。というか、ヘタに止めたくない。3Dプリンター屋としては、何を目的としてとかいうことはまったくないので。目的を決めないことが、自由に作れることなのかな、とは思っています。そのあたりの予定はFacebookで告知をしてるので、皆さんご覧になってください。どうもありがとうございました。